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会員紹介

秋田県立大学木材高度加工研究所
秋田県立大学木材高度加工研究所 左:高田先生、右:足立先生
林業成長産業化地域創出モデル事業」は、2017年に林野庁が始めたプロジェクトです。
“森の国”と言われる日本の豊富な森林資源を活用し、「木を伐って→使って→また植える」という循環を生み出して産業としての林業を確立するために、地域ごとにモデル事業を創出する必要があるということで、全国16カ所のモデル地域が選定されました。(2018年にさらに12地域が追加され、現在、28地域で実施中)

今回は、大館北秋田地域でモデル事業を進めるにあたって、アドバイザーとして協議会に参画されている秋田県立大学木材高度加工研究所(以下、木高研)の高田克彦先生と足立幸司先生にお話を伺いました。
―協議会の中で、先生方の役割について教えてください。

高田先生 私は口が悪い人、足立先生は優しい人、という役割分担です(笑)。私は木高研教授のほか、森林資源バイオエコノミー推進機構株式会社というベンチャー企業の代表取締役をしているので、林業がビジネスとして発展していくかどうかという視点でアドバイスをしています。時には非常に厳しい口調で発言することもあり、そんな時は足立先生が柔らかくフォローしてくれます(笑)。

足立先生 私は、協議会メンバーの皆さんの”気づき”になるようなアドバイスをしています。普通に毎日過ごすだけでは出会えない人と人を繋いだり、秋田杉ばかりに頼るのではなく森の恵みをトータルで資源として活用する視点など、お話しています。


―秋田県の林業の現状について、どのように見ておられますか?

高田先生 佐竹の殿様の時代から秋田の杉を保護・活用してきた歴史があるので、製材、突き板などの技術や知恵は進んでいると思います。
ただ、これまで使ってきたものは天然秋田杉で、山が育ててくれた資源をそのまま使っていただけです。昭和30〜40年ごろに植えた人工の秋田杉に関しては、材質的には他県の杉と大差がないので、全国の強豪に打ち勝って製品を売っていくためには工夫が必要です。これまで天然杉というアドバンテージに頼っていた分、安定供給や質の確保といった工業材料の販売に必要な仕組みは、他の地域よりも遅れているところもあるように思います。

―大館北秋田地域の取り組みについて教えてください。

足立先生 大館市、北秋田市、上小阿仁村という3つの市村が集まっているので、地域ごとに特徴があるというメリットがあれば、進度や意識が違うので足並みが揃いにくいというデメリットもあります。

高田先生 大館市は、市有林の木の利用促進の意識が強く、かなり木材利用が進んでいます。また「AKITASUGIツーリズム」という独自の取り組みで、曲げわっぱなど他の強みと組み合わせて体験型の観光資源として、林業を積極的にPRしています。

北秋田市は、広葉樹を含めた木材を加工して製品にするアイデアが豊富で、職人さんが多い地域です。観光に絡めるなどして、地域外の需要を探しているところです。

上小阿仁村は、村有林で森林認証を取得し、森林認証材の供給を行うほか木質チップ加工施設を整備し、バイオマス利用を進めています。土地から出る木材資源を、余すことなく使い切ることに力を入れています。

小さい市や村の中で需要と供給を完結させるのではなく、3市村の特徴を活かしつつ、協調関係を結んで互いに供給し合うことができるのはこの地域の良いところです。10年、20年先に林業が独自の産業構造を持って発展し、林業従事者の収入が上がり、雇用を増やして他県からの流入を促進し、さらに林業で起業するような動きを作れることが理想です。

―今後、この取り組みがどのように進んでいったらいいと考えておられますか?

高田先生 私は若い頃、似たような事業に関わって、苦い経験をしているんです。行政から予算が出るプロジェクトの場合、中には”バスにタダ乗りする人“が出てきます。予算があるうちは参加するけど、予算がなくなった途端にバスを降りてしまう。そうではなくて、「プロジェクト終了後は自分がバスを運転するぞ!」くらいの人が出てこないとダメなんです。

今は、この地域の林業や木材に関連する人が集まってバスに乗っている状態です。集まった企業の中からジョイントベンチャーが立ち上がり、プロジェクト終了後も本気で発展させていくくらいの気概が必要です。そう思って、奮起していただきたいという気持ちで厳しい言葉をかける時もあります。

足立先生 協議会ができる前は、木材生産に関わる人、製材に関わる人、木材を製品として加工する人、販売する人たちが、自分の生業に直接関わる人としか繋がっていませんでした。輪になって並んでいるのに、自分の前後の人しか見えなかった状態です。そこから、循環の輪の全体が見え、お互いを知って意見を言える状態を3年間で作ることができました。

メンバーに行政が入っているので、新たなルール作りをしていくこともできるのが、この協議会の大きなメリットです。森がいつまでもある未来を目指して、頑張る民間をサポートするのが大学や行政です。プロジェクトの内容によっては、アドバイザーでありながらプレーヤーのような立場になってしまうこともあるのですが、特産品としてのブランディング、観光との連携、木育の推進といったわかりやすい出口を掘り起こし、産業として認知してもらえるようにと考えています。


―最後に、協議会の皆さんへのメッセージをお願いします。

高田先生 モデル地域として選定を受けたことは、それ自体では大したことではありません。描いた絵を、この5年間でどれだけ実現できるか。そして5年間で構築した仕組みを使って、この先10年、20年と努力を続けて、これまでにない取り組みや活動ができるようになった時に初めて「産業化のモデルとして進んでいる」と言えるようになるのです。プレーヤーである協議会の皆さんが、抽象的な”循環の輪”の理念にどれだけ肉付けして具体的なアクションを起こせるか、そこに期待しています!

―どうもありがとうございました!


この記事を書いたライター 島田 真紀子(mamaplan所属)https://mamaplanodate.net/
有限会社無明舎出版勤務を経て、フリーライターとして雑誌やWEBの記事を執筆。
秋田県内を中心に、観光・食・子育て・スポーツ・話題のスポットなどについて発信しています。

―取材を終えて
インタビュー中、先生方が「林業はビジネス」だと何度もおっしゃっていたのが印象的でした。「コンソーシアムはビジネスではない、そこからジョイントベンチャーにしていかなきゃいけない」と。大館北秋田の林業がビジネスとして発展し、林業に関わる人たちが収益を上げて誇りを持って働くことが、地域の森を豊かにすることにつながるという、とても重要なプロジェクトなのだと感じました。

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